ヒール
(※ご依頼の方の体験を基にしたライターによる加工執筆です)

『ごめん、打ち合わせで遅くなる、先に寝てて』
携帯電話のメールに、美咲はため息をついた。
用意していた夕食にラップをかけ、冷蔵庫にしまう。
テーブルの上がカラになると、リフォームしたばかりの台所が、ひどく広く感じられた。
先月から夫である啓の残業が増えている。最初は係長になって残業手当もつかないのに、無理をしていそうで心配だった。
だが、最近になって残業だけではないことも薄々気がついていた。
啓は帰ったばかりでシャワーを浴びる、その前にかすかに残る香りがある。甘ったるい女物のコロン、そしてメンソールのタバコの香り。
尋ねれば、友人とたまに飲んでくるぐらいいいだろう。打ち合わせが外だった――その後、しばらく気まずい時間が続く。それならば、ほおっておいた方がいいのかもしれない。
結局、その夜、啓が帰ってきたのは2時。
疲れた顔の夫に、美咲は声をかけなかった。
Posted on : 2007年10月29日 | トラックバック (0)

